神雷桜花隊・片桐清美さん
2021-10-23


無情にも、急遽、片桐兵曹の代役が立てられることになったのです。

山岡さんは「Nという少年兵」と書いていますが、神坂次郎『特攻 還らざる若者たちの鎮魂歌』によるとこれは小城久作上飛曹(丙11期と書いてあるが、丙10期)。

小城兵曹の回想。
『宿舎で頭から毛布をかぶって寝ていると、急に誰かに毛布をはぎとられ顔の真上から懐中電灯で照らされました。驚いて見上げると「小城、いまから出撃してくれ、片桐がいないのだ。代わりに君が出撃してくれ」という林大尉の声で夢から現実の世界につれ戻されました。身を半分起しながら「はっ」と答えたものの、出撃をする番でないので身のまわりの整理はしていない。 で、一言、林大尉に整理のしていないことを愚痴って身じたくを急いで朝食をとり、別盃の式が行われる広場に行くと、すでに山村、堀江、武井、勝村その他本日の出撃者全員が集まって私が着くのを待っていました。間もなく岡村司令の訓示、別れの言葉、別盃をかわし、再び戻ることのないこの世に別れを告げ、三途の川行きのトラックに乗り込み出発です』

山岡さんは小城兵曹が代役に仕立てられたのを見届けたあとも、まだ片桐兵曹を捜し続けていました。
おそらく自分のためというより、小城兵曹のため、片桐兵曹のため、他の隊員たちのため・・・・。

そして、いままで見なかった壕内入口右そでのわずかな空きベッドに、すっかり武装して桃色のマフラーを巻き、ピカピカの飛行グツを履いたままイビキをかいている片桐兵曹を見つけたのです。

『「あ、こんなところに・・・・おい、出番だぞ」
私が飛びつくようにして起すと、彼は 「あ・・・・」と小さく叫んで時計を見ると、私の方など見向きもせずにそのまま整列に加わった。それっきりだった・・・・』


小城兵曹の回想。
『その時です。乗り込もうと私が片足をトラックの荷台にかけ他の片足がまさに地上を離れようとした時、私の飛行服のバンドに誰か手を掛け、私を地上に引き降ろそうとするのです。振り向くと片桐清美兵曹です。 「小城、俺の番だ、俺の番だ」いうと片桐は荷台に飛び乗り、片手をあげバイバイをし、アカンベーをしました。片桐兵曹は三度出撃しましたが、天候不良、エンジン不調のため引き返していたのを無念に思い、「俺が死んだら三途の川原で 鬼を集めておけさ踊らん」と飛行服の背中に白ペンキで辞世を書いている猛者でした。彼を乗せたトラックは冥土行きの飛行機の待つ列線へと急行、三十分後に敵艦船を求めて飛立ち、ふたたび帰ることはありませんでした』


西田中尉にもらったピカピカの飛行グツ。
もらってから40日あまり。
ふつうに履いていればピカピカのままであるはずはありません。

中尉の形見・・・・と毎日磨き続けていたのか、この日のために履かずにとっておいたのか・・・・。

かれは中尉にもらったピカピカの飛行グツで、全速で駈けていったのです。
友を連れ戻すために。
自分の誇りを守るために。



片桐清美1飛曹

福岡県出身。大正11(1922)年生まれ。丙15期。


20年6月22日
第10神雷桜花特別攻撃隊 

この日が最後の桜花攻撃になりました。




参考:文藝春秋編 協力・元神雷部隊戦友会有志『証言・桜花特攻 人間爆弾と呼ばれて』、 神坂次郎『特攻 還らざる若者たちへの鎮魂歌』
片桐兵曹の遺影はご遺族の方のご厚意で掲載させていただきました






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