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5月2日の朝、伊47潜の機関長附であった佐丸幹男中尉は非番になり、士官室の長椅子で仮眠を取っていました。
そこに突然の「敵発見」「艦内哨戒第一配備」の号令が響き渡りました。
佐丸中尉が起き上がると、ちょうどT字の位置に当たるベッドで横になっていた柿崎中尉も起き上がったところでした。
『お互いに顔を見合せて思わずニッと微笑を交わした』
そして「回天戦用意」「搭乗員乗艇」の号令。
『間もなく1号艇の柿崎中尉が駈けつけてきた。見ればシャツ、作業服ズボン、長半靴という服装に携帯電灯、秒時計を持ったいつもの身軽な訓練姿だ。ただ、キリッとしめた鉢巻が云わず語らずに決意の強さを示している。
「敵は大型輸送船1隻、護衛駆逐艦2隻」と報じられる。「搭乗員乗艇急げ」がくる。交通筒下部ハッチをあげると丸い孔がぽっかりと口を開く。中は暗い。移動灯で照らしてやる。
柿崎中尉が兵員ベッドを足場にして今正に入り込まんとしている。大義に殉ずべく、我が死に超然たり得る姿を今眼前に見せつけられようとするのである。思わずこの眼が涙ぐんでくるのをどうすることもできない。感極まっていうべき言葉もないのであるが、漸くのことで「オイシッカリ頼むぞ」と軽く肩を叩いてやった。交通筒に入り込んだところで彼はちょっと振り返りニッコリ笑うと共に軽く右手を挙げ「さよなら」とただ一言を残して平然として回天下部ハッチを開き中に没し去った』
「1号艇(柿崎中尉)、発動」
という、連絡の音声が、すでに回天の操縦席に乗り込んでいる横田兵曹の電話にかすかに入ってきました。
『思わず特眼鏡をあげて、接眼部にぴたりと目をつける。
海の中は青空のように、コバルト色に澄みきっていた。そのなかで、約十メートルぐらいはなれた前方の一号艇が、突如、ガガガ・・・・ガガと軽快な熱走音を出し、スクリューが猛烈な勢いで回転をはじめた。まっ白い気泡が、煙のように見える。唇をかみしめながら、なおも見ていると、ガタンガタンと音がして、ワイヤーバンドがはずれ、甲板にくずれ落ちた。と思うまもなく、ガーッと熱走音の余韻を残して、見るまに遠ざかっていった。
「隊長!」
心の中で呼びとめる』
5月2日の回天の戦果。
大型輸送船1隻
駆逐艦2隻
(柿崎中尉、山口兵曹発進後、古川兵曹の回天も発進)
参考:佐丸幹男『柿崎中尉の思い出』なにわ会戦記
横田寛『あゝ回天特攻隊』光人社NF文庫
※佐丸さんと横田さんの手記で敵艦数に違いがありますが、そのまま書きました。
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